日本の最新の防災対策技術を採用 ~ボリビア多民族国 国道7号線道路防災対策計画~

2024年7月18日

はじめに.

  本プロジェクトの対象となる国道7号線は、サンタクルス県とコチャバンバ県を繋ぐボリビア国物流の根幹であり、中でもアンゴストゥーラ~パリサーダ間は、東は国道5号線を経由してスクレ市やポトシ市および、隣国のチリに至り、西は国道4線を経由してブラジルに抜ける重要な国際輸送回廊の一部を成していますが、この度のパリサーダ~プエルテアルセ間とポトシ~ウユニ間の国道5号線およびパイロン~サン ホセ デチキトス間の国道4号線の改修に伴い、今後より一層国際輸送回廊としても重要な役割を担うものと考えられています。
 実は、アンゴストゥーラ~パリサーダ間の道路は斜面表層部の風化が進み、2006年~2007年の雨季に発生したエルニーニョ現象に起因する集中豪雨では、斜面崩壊、落石/岩盤崩壊、地すべり、土石流等が多発し、頻繁に通行止めが発生しました。また、2007年~2008年の雨季にも再び集中豪雨が発生し、斜面崩壊により4名の人命が失われるとともに、延べ約60日間にわたり交通が遮断されサンタクルスへ物資供給が滞るなど、ボリビア国経済に多大な影響を与えました。
 このような中、国道7号線の斜面対策工事を目的として実施が計画され、ボリビア国からの要請により、日本のODA(無償資金協力)によってこのプロジェクトが実現したのであります。


 7-11工区_全景写真


 7-19工区_全景写真
 

工事概要.

(1)計画名     ボリビア多民族国 国道7号線道路防災対策計画
 (PROYECTO SOBRE MEDIDAS PREVENTIVAS DE DESASTRES EN LA RED VIAL FUNDAMENTAL 7)
(2)工事箇所名      7-11工区 L=60m、7-18工区 L=225m、7-19工区 L=298.4m
(3)施工場所     ボリビア多民族国サンタクルス県
(4)工  期     2022年 4月 9日~2023年12月31日(21ヶ月)
(5)発注者     ボリビア道路管理局
  (ADMINISTRADORA BOLIVIANA DE CARRETERAS)

 

工事位置.

ボリビア多民族国
国土面積は約110万平方キロメートルで、日本の約3倍の大きさ。

工事の特徴的な部分.

施工箇所が3か所に分かれており、各所それぞれの特徴および数量を以下に示します。

【7-11工区】
 主要工事は、土工事とコンクリート工事です。急峻な斜面であるため、水路工事のコンクリート打設に苦労しました。大雨が降ると山からの雨水が流れるため(仮設排水を設けていたのですが)、何度も土工事をやり直さなければなりませんでした。そのため他工事(現地発注工事)との工程調整が必要となり、施工工程を当初計画から改め、競合部分の施工を先行して工事を進めました。さらには、本施工現場が事務所から一番遠い所にあり、行きに約1時間、往復すると約2時間ということで何かと時間を要しました。

(工事数量)伐開763m2、切土工1,479m3、床固め工2か所、水路工152.4m、集水桝工4か所、擁壁工(H=3.0m)38.8m、植栽工763m2


 7-11工区_区画線設置
 

 7-11工区_法面状況(降雨時)


【7-18工区】

 本工区は、今回の工事で一番多くの工種で構成され、法面は転石や亀裂の入った岩盤が点在していました。大雨が降ると小さな法面崩壊が発生して既設道路に土砂が堆積することがありましたが、工事中は、仮設落石防護柵があり、道路および通行車両への影響はありませんでした。既設ふとんかごの撤去については発注者との協議が難航しましたが、何度も打合せを行うことにより工程遅延を回避することができました。

(工事数量)【全工区】管理用通路600m、【A工区】地すべり対策工-プレストネット工1,617m2、ポケット式落石防護網工576m2、【B工区】のり面清掃32.0m2、縦排水工20m、接続桝・水路工1式、【C工区】現場吹付法枠工3,047m2、落石防護柵工62.7m、ワイヤーロープ掛工200m2、【E工区】ポケット式落石防護網工2,280m2、現場吹付法枠工2,181.0m2、縦排水工95.35m2


 7-18工区_仮設落石防護柵
 

 7-18工区_法面状況


 7-18工区_施工状況(プレストネット工法)

7-18工区_施工状況(プレストネット工法)



【7-19工区】

 この工区は、一番大きな法面を擁し
風化した岩盤で構成されていました。いつも強風が吹くため、時々風化した岩が既設道路に落ちてくることがありました。法長は最大約100mあり、施工上部へ行くまでにはとても体力を消耗しますが、現地作業員は若いためすぐに慣れていました。現場吹付法枠工の面積は10,000m2を超えるため、工事工程は施工手順の確立、使用材料の調達、現地作業員の能力、日本人技術者の能力に大きく左右されましたが、現場一丸となって工期内に無事工事を終わらせることができました。
(工事数量)土工1式、現場吹付法枠工11,727.6m2、法裾モルタル吹付け116.23m2、地すべり対策工-プレストネット工2,775m2、ワイヤーロープ掛け工460m2、根固め(H=3.5m)18m、管理用通路600m


 7-19工区_斜面対策工_俯瞰写真
 

 7-19工区_法面工事施工状況


施工や安全管理で工夫したこと.

・仮設落石防護柵の設置について
 仮設落石防護柵は当初計画のH鋼横矢板を取りやめて、大型土のうと単管柵を設置して施工しました。一般車両の接触と落石による損傷はありましたが、大きな災害は発生せず機能を満足するものとなりました。

・ロックボルト工事の施工方法について
 施工方法としては単管傾斜足場を設置せず、無足場工法(親綱+ロリップによるぶら下がり)によるロックボルト施工としました。クレーンを使用して削孔機を所定の位置に移動し、吊った状態のままチルホールなどで固定します。オペレーターおよび作業員はぶら下がり方式で操作・作業しました。

・24時間体制の片側交互通行規制(規制区間距離1km)の実施
 ボリビアでは、工事場所に24時間体制で交通誘導員を配置することがなく、夜間になると規制帯をそのままにして、道路を開放している箇所がありました。そのため現地道路規制仕様書を基に交通誘導、安全管理、緊急事態発生時の対応を計画して工事を円滑に進めるよう努力しました。交通誘導員同士の連絡はトランシーバーを用いて行い、必ず予備を携帯するように指導しました。

・地域清掃活動の実施および協力
 道路に捨てられるごみについては、定期的に工事関係者全員で清掃活動を実施しました。また、事務所所在の市のために、清掃時に使用する資材を無償で提供しました。


 道路清掃活動

 救護訓練実施


一番難しかった、苦労した工程.

 現場の仮払口座を設けている現地取引銀行が破綻して、一時口座からお金を引き出せなくなりましたが、国の緊急措置により他行への銀行口座振替が行われて全額を回収することができました。
 また、ボリビア国内全土における道路封鎖(ボリビアでは市民や労働者が国や行政などに対してちょっとした不満があると度々行われる)によって、工事用車両および機械に使用する燃料が入手できなくなることもありましたが、協力業者に依頼して各所から調達をして工事が止まらないように調整しました。
 このほか発注者と会議を実施しても、とにかく決まらないことが多いため、施工時期の調整に時間がかかり工程管理に苦労しました。
 

DXへの取り組み.

 毎月行われる月例会議(発注者ABC、現地JICA、コンサルタント、施工業者)および半年ごとに行われる品質管理会議(発注者ABC、日本および現地JICA、日本および現地コンサルタント、施工業者)は、ZOOMミーティングを使用して移動することなく各地で実施しました。しかし、会議にあたり日本とボリビアの時差が13時間あるため時間調整に苦労しました。
 DXとは直接関係ありませんが、人材の活用という面では積極的に現地スタッフを採用して、日本からの技術者派遣を極力減らした中で施工管理を行いました。


 ZOOM会議(ABCサンタクルス事務所様)

 ZOOM会議(現場事務所)

 


施工に関して日本との違い.

 コンクリートは、現場において簡易ミキサー(0.3m3練り)を使用して製造し、コンクリートバケットにより打設を行いました。コンクリート現場試験は、社員と現地スタッフで行うことになりますが、その際には、試験方法等の内容をJISに適合しているか熟知していなければなりません。また、セメントは、1袋の重さが50kgあるため、現地作業員は体力がないと作業ができない状況でした。
 施工に際しての作業説明では通訳者を介して日本語からスペイン語で行うため、現地作業員は細部まで一度で理解できず、何度も繰り返し説明をする必要がありました。
 さらに当社職員は、現地で車を運転することが禁止されているため、全ての車の移動は現地人運転手が行います。作業場所においてまれに規格外の車両通行があり、仮設落石防護柵を破損されることもありましたが、即時復旧作業を行い、仮設落石防護柵の機能を確保するようにしました。資機材の調達は日本からと現地となります。日本からの調達は、材料注文~国内運搬~コンテナ積込み~船積み~海上輸送~現地運搬(トレーラーによる)流れとなります。輸送期間は、およそ2、3か月を必要とします。そのため、工事工程に合わせて日本から出港する期日を調整して行いました。

 海外での仕事は外国語がわからなくても日本での工事経験により大部分は補うことができます。特に翻訳は、インターネットの発達により日本語から多言語への変換は容易であり、かなり高い精度で表現されます。国内外問わず働くうえで何が一番大切かというと、各職員が最高の仕事をするための快適な職場環境を整えることが必要です。言葉で言えば簡単に表現できますが、職場環境づくりは非常に重要で、どこでも働きやすい職場と言われるような会社にしていかなければならないと考え、この現場でも可能な限り実践しました。


 朝礼

 朝礼

 現場見学会(現地大学生による)

 現地作業員指導


関係者への感謝の言葉、若手社員へのメッセージ.

 これまで度重なる災害によって国の経済や地域住民の生活に支障をきたしていた国道7号線も日本の資金援助と技術によって斜面防災工事を施工し、道路通行の安全性が格段に向上したことで地域住民の方々から感謝のお言葉をいただいたことは何にも替え難い労いとなり、これまでの苦労が報われました。
 海外に限ったことではありませんが我々はインフラ整備に携わるものとして今後も研鑽に励むとともに、地域の発展とそこに住む人々のよりよい生活環境を維持するため日本国内だけでなく世界中に「IWATA CHIZAKI」の名前が広く知れ渡るよう微力ではありますが努めていきたいと思っています。
 また、海外工事には、国内では得られない経験や魅力がたくさんあります。このレポートを見て海外の工事に携わってみたいという人が出てきてくれると嬉しいですし、今後も海外工事の魅力をどんどん発信していけたらよいなと思っております。
 最後に、この工事に携わった関係者の方々の多大なるご協力により無事完成することができましたことを心より感謝申し上げます。
ボリビア日本国大使館のホームぺージに当工事のことが掲載されています。

【工事期間中の様子】
在ボリビア日本国大使館. 「日本の無償資金協力「国道7号線道路防災対策計画」が順調に進捗
.令和5年6月12日
https://www.bo.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_01569.html

【引渡式の記事】
在ボリビア日本国大使館. 「アルセ大統領出席による無償資金協力「国道7号線道路防災対策計画」引渡式実施」.令和6年3月26日
https://www.bo.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_01832.html