現場打ちコンクリートの特性を活かした力強いファサードの複合商業施設 ~IKEUCHI GATE 建替工事~

2024年1月21日

1 はじめに

IKEUCHI GATEは、札幌市内の中心部南1条通と西3丁目通の交差点に位置する複合商業施設です。旧ビルは1949年に竣工、70年以上経過したため、同じ場所での建替工事が計画されました。「アートとテクノロジーとイノベーションが融合した新しい形のスマートビルディング」をコンセプトに掲げ、意匠性と機能性を追求した建物で、設計は日本を代表する世界的建築家、伊東豊雄氏です。

工事概要

2 建物概要

当建物の最大の特徴は、成長する植物を思わせる力強いファサード(図-1)。植物が地面から空に向かって流線的に伸びていくような形の「葉型構造体」は、建物の構造を支えるSRC造の柱です。「葉型構造体」が建物の外側にあることで、内部空間のレイアウトの自由度が高くなっており、また各階によって「葉型構造体」の形状が異なるため、開口部の形状も変化しています。
 
「葉型構造体」の施工には、開口部に取り付ける異形サッシや内装仕上げの施工性に影響するため、高い精度が求められました。これをプレキャストコンクリートではなく、現場打ちコンクリートで施工することが当工事の最大の課題でした。


図‐1 外観パース(西面)

3 実物大モックアップによる検証

現場施工の前に、建物6階外壁の一部分のモックアップを製作し、施工上の課題を洗い出すこととしました。モックアップは建物と同じ西向きとし、発注者、設計者のイメージする外観(色合いや質感など)の建物となるよう、コンクリート工事や塗装工事などの施工方法を検証しました。また、鉄筋や鉄骨の配置・納まりを確認し、施工の高度化を図りました。

3.1 鉄骨工事~鉄筋工事

モックアップの鉄骨は、問題点の検討をしやすくするため、木製の模擬鉄骨を使用しました。基礎コンクリートを打設した後、現場施工を想定し、鉄骨の建方、梁・柱・壁の配筋を行いました(写真-1)。柱・壁の鉄筋が鉄骨に干渉する部分の納まりや定着方法などについて、構造担当者とともに確認しました。

(a) 実物大モックアップ 全景


(b) 基礎コンクリート打設

(c) 鉄骨組立完了

(d) 鉄筋組立(梁、柱)

(e) 鉄筋組立完了(梁、柱)

(f) 鉄筋組立完了(壁)

(g) 鉄筋組立完了(壁筋定着)

写真-1 実物大モックアップ製作状況

3.2 型枠工事

高い施工精度が求められる「葉型構造体」に、スランプフロー60cmの高強度コンクリートを使用するため、通常より大きくなるコンクリートの側圧に耐えることができるように、型枠は200mm間隔で厚さ24mm板が櫛目状に入った頑丈なシステム型枠を使用しました。

また「葉型構造体」は含浸性塗装材の塗布仕上げであるため、型枠脱型後のコンクリート表面の補修を最小限に抑えなければなりません。型枠ジョイント部からのノロ漏れを防止するため、止水テープを使用しました。止水テープは、打設前の散水によってテープが膨らみ、型枠ジョイント部の隙間を塞ぎます。砂目地の抑止にもつながるため、コンクリートの美観も向上します(写真-2)。


(a) 型枠材

(b) 止水テープ

(c) 型枠組立状況
写真-2 システム型枠組立

3.3 コンクリート工事

当工事におけるコンクリートの仕様を表-1に示します。設計基準強度が1~6階(60N/mm2)と7階(36N/mm2)で異なるため、実物大のモックアップのほかに平板のモックアップ(1,000×1,000×t 150mm)を製作し(写真-3)、コンクリート強度の違いによる表面の美観(色合い等)の違いを確認することとしました。また、実物大のモックアップは、型枠脱型の時期を、材齢5日と材齢12日の2通り設定し、存置期間の違いが与える影響についても確認することとしました。
 
その結果、写真-4に示すように、コンクリート強度や型枠の脱型時期の違いによるコンクリート表面の色合いへの影響は左程生じませんでした。


表-1 コンクリートの仕様

写真-3 型枠脱型後確認(全景)

写真-4 壁型枠脱型(表面確認)

3.4 塗装工事

今回使用する含浸性塗装材は、風雨、温度変化、太陽光に対する耐候性、耐退色性が高く、光の当たり方によって、見え方や光沢が変化します。塗装材の機能を最大限に発揮させるために、建物と同じ西向きのモックアップで、こうした環境条件に留意しながら、塗装材の希釈率、施工手順などを発注者、設計者とともに確認しました(写真-5~6)。


写真-5 平板モックアップ

写真-6 実物大モックアップ完成

4 現場施工

実物大モックアップで施工上の課題を洗い出し対応策を検討した上で、現場施工に臨みました。「葉型構造体」の鉄筋組立状況を写真-7に、型枠組立状況を図-2、写真-8~9に示します。
 
「葉型構造体」の稜線を際立たせるために、システム型枠は、突合せ部をボルトで固定するなど、堅固に組み立て、モックアップと同様に止水テープを使用しました。型枠の下端については、ノロ漏れが下階に付着しないように、シートによる養生を行いました。


写真-7 「葉型構造体」鉄筋組立
 

図-2 「葉型構造体」型枠組立要領(平面)

写真-8 「葉型構造体」型枠組立

写真-9 「葉型構造体」型枠組立完了

設計基準強度が60N/mm2である1~6階には高強度コンクリート(スランプフロー60cm)を、設計基準強度が36N/mm2である7階には高流動コンクリート(スランプフロー55cm)を使用しました。コンクリートの試験状況を写真-10に、打設状況を写真-11に示します。


写真-10 スランプフロー試験
 

写真-11 コンクリート打設状況
「葉型構造体」の型枠の脱型後,コンクリート表面の仕上りや位置,形状・寸法が所定の品質を有していることを確認しました。その後の異形サッシの取付や含浸性塗装材の塗布にスムーズに移行することができ,実物大モックアップによる検討結果を,効果的に現場施工に活かすことができました。

5 おわりに

IKEUCHI GATEは、高い意匠性に加えて、高断熱化・高性能窓ガラス(トリプルLow-Eガラス)の採用、高効率設備(空調・換気・照明)の導入により、ZEB Readyを取得するなど、機能性も追求した建物です。こうした意匠性、機能性を発揮させるためには、高い施工精度が必要であり、今回、発注者、設計者の協力のもと、モックアップによる事前検討し、実際の現場施工に反映させることで、工期内に無事、工事を終えることができました。
 
この施設が産業交流の中核拠点として札幌市中心部のランドマークとなり、地域の発展につながることを期待しています。