2021年11月10日
障がい者や防災に配慮した学校建設(ODA事業)
モンゴルでは、子どもの人口増加や地方からウランバートル市への人口移動により、急激に児童・生徒数が増加しています。その一方で教育施設の整備は遅れており、二部、三部制による授業の実施や学区外への通学を余儀なくされています。さらに障害児が学ぶためのインフラ整備は十分と言えず、施設の耐震化についても多くの施設が非耐震設計のままになっていました。そのため、今後モンゴル国内で障がい者や防災にも配慮した質の高い学校建設を進めるべく、ODA事業として今後の事業モデルとなる初等・中等教育施設を整備する計画が立てられました。(75番校 全景)
工事概要
工事名:ウランバートル市初等・中等教育施設整備計画発注者:モンゴル国 教育・文化・科学・スポーツ省
工期:2018年8月1日~2021年2月24日
施工者:岩田地崎・大日本土木共同企業体
概要(建築工事) :新築校舎・RC造・2校(75番学校、149番学校)、既存校舎拡張・
改築校舎・RC造・2校(53番学校、109番学校)、計4校(給水・排
水設備、暖房・換気設備)
(家具・機材):学校家具、各種機材・教材、体育用品
工事場所:モンゴル国ウランバートル市
(53番校 体育館)
(53番校 スロープ)
モンゴルの国紹介
1 面積:156万4,100平方キロメートル(日本の約4倍)2 人口:329万6,866人
3 首都:ウランバートル(人口153万9,810人)
4 民族:モンゴル人(全体の95%)及びカザフ人等
5 言語:モンゴル語(国家公用語)、カザフ語
6 宗教:チベット仏教等
7 主要産業:鉱業、牧畜業、流通業、軽工業
8 政体:共和制(大統領制と議院内閣制の併用)
9 主要貿易品目
(1)輸出 鉱物資源(石炭、銅精鉱、蛍石など)、牧畜産品(カシミア、羊毛、皮革など)
(2)輸入 石油燃料、自動車、機械設備類、食料品
モンゴルでの生活
宿舎:事務所から徒歩3分くらいのアパートで暮らしていました。食事:モンゴルは内陸にあり海から離れた地であることから、主食は家畜である羊・馬・
牛・ラクダやそれらの乳製品になります。モンゴル料理において、「出汁」は存在せ
ず、調味料についても塩のみで、香辛料は一切使用しません。調理方法も、「茹で
る」「炙り焼き」が一般的となります。現場の宿舎では現地で雇用したコックさんが
和食レシピを勉強して食べきれないほどの量の日本食を作ってくれました。
冬 :冬の最高気温が-20度を下回るので、外出の際は、呼吸法に注意が必要です。
口呼吸は咳き込みます。鼻呼吸で浅い息継ぎでないと肺が凍ってしまうようです。
言葉:日本語の話せるモンゴル人を雇用し、現場事務や通訳をお願いしていました。また、
現地下請け会社に日本人がいたので、下請け従業員との連携はその方を通して行って
いました。
日本の工事現場との違い
【安全管理】モンゴル人の安全意識は日本と比較すると、安全設備、安全教育など全般的に安全管理は劣っており、安全に対する基本的な考え方からの教育が必要でした。従ってJICAによる安全教育も含めて、安全管理活動、啓蒙活動を実施しました。【冬場の施工】モンゴルでは、冬期の最高気温が-20℃を下回ることが多く、10月中旬以降の躯体作業は基本的には行われません。このため、10月中旬までにコンクリートの打設を完了させることが工程上重要となります。さらに、建具や断熱材の取付けなどの外装作業、暖房機器の設備工事などを完了させなければ、寒さのため冬期間中に内装作業ができないので、冬期前までの工程管理が非常に重要となります。
【工程管理】モンゴル人は時間の制約に日本人ほど厳格でないため、しっかりと工程管理を行う必要があります。また熟練工が少なく、建築的な知識も乏しいため、各工種、各検査段階でのチェックが重要なポイントとなり、各工程においての教育が必要です。また炭鉱産業が盛んで給与面等の処遇も良いため、優秀な労働力が炭鉱産業に流れてしまい、現地での優秀な人材確保に苦労しました。
【資材調達】資材は比較的容易に入手することができますが、多くはモンゴル国内製で輸入品の場合でも中国製、韓国製などが主流です。安価ではありますが、日本製に比べると品質が劣るため、屋根材、内装材は日本からの調達が必要となりました。
新型コロナウイルス影響下での建設作業
モンゴルでの工事期間中に、①度重なるロックダウンや、②2020年2月から日本人を含む外国人がモンゴル国内へ入国することができなくなったこと、③飛行機や船の便数が減り、資材調達に大幅な遅れがあったことの3点が大きな影響でした。2020年2月末に現地の旧正月休暇に合わせて一時帰国をしていた高坂所長や日本人技術者がモンゴルへ再入国できず、一時帰国期間の支援業務のためにモンゴルへ行った林工事部長が長期間モンゴルでの施工管理をしなければならない事態になりました。ロックダウンにより工事を一時中止したため、大幅にコストが増えましたが、高額な日本人技術者がモンゴルで働くことができない分、安価なモンゴル人技術者を多く活用することで、コストを抑えることができました。また、現地に行けないため、スカイプでのビデオ会議やインターネットを利用した遠隔での施工管理を行いました。
新型コロナ禍により容易に出入国できないという大きな困難に際し、工夫して遠隔で施工管理ができたことは、今後の新しい海外建設工事形態になるのではないかと思われます。